理想の炊飯とは?清喜ひとしなで1000回精米している平川さんに聞いてみよう
炊飯を上手にするコツ。
――ネットで調べると、軽量の方法、お米の洗い方、浸水時間、炊けてからのほぐし方、みりんや酒のちょい足し、昆布、備長炭、ミネラルウォーターなどなど。いろんなサイトが「これぞ」という方法を教えてくれます。
けれども、いちばん大切なのは自分のごはんの好みを知ることです。「どんなごはんが食べたいか」ゴールを決めてから方法を選べば、自分の理想のごはんにグッと近づくことができます。
今回は、福岡の六本松にある出汁ステーキ定食の専門店「清喜ひとしな」で、毎日精米と炊飯をしている平川さんに、理想のごはんについて聞いてみました。
『炊飯の正解ってなんだろう』
そもそも、ごはんの好みは十人十色。
お寿司屋さんのような、粒立ちが良くて、噛むほど旨味がにじむ、「お、わたしは今お米を食べてるぞ」って感じられるごはんが好きという意見があれば、すっと風味がよくて、のど越しが良い「ノンストレスでおかずに寄り添う」ごはんが食べたい人だっています。
もっといえば、硬めがいいとか柔らかめがいいとか、熱々かひやごはんとか、その日で変わることだってあるかもしれない。
となれば、炊飯の正解は一つではありません。「炊き上がりのゴールをどこに設定するか」でお米も道具も選び方が変わるということです。たとえば、羽釜で炊くのと土鍋で炊くのでは次のような違いがあります。
『羽釜で炊くとこうなる』
羽釜のいちばんの特徴は「熱伝導率の高さ」です。
高い火力で一気に炊き上げることができるので、旨みを閉じ込めた「粒立ちの良いパリッとしたごはん」が炊きあがります。底が丸い形状で、対流も活発に起こるので炊きムラも起こりにくい強みがあります。
羽釜で炊いたごはんは、お米そのものの食感を楽しみたい「お寿司」や、タレが絡まってもピンとしているので、鰻重や天丼、カツ丼などの「丼もの」にも向いています。
『土鍋で炊くとこうなる』
一方の土鍋は「熱伝導率の低さと蓄熱性の高さ」が持ち味です。
羽釜と全くの対極。全方位から、じわーっと熱を込めることで、お米の風味を十分に引き出すことができます。お米の旨みの元である「でんぷんが糖に分解される温度帯」をゆっくりと通過できるのが、土鍋のよさ。
ソフトに炊き上がるので、「和食のコースの最後」でも食べ疲れにしにくいですし、「おかずをひきたてたい」と思うときには、向いた炊飯道具といえるでしょう。おこげができるのも楽しいところ。
『炊飯器はだめなの?』
では、炊飯器はだめなのか。というと、そんなことはありません。
最近の炊飯器の進化には目を見張るものがあります。炊飯器でありながら羽釜の良さや土鍋の良さを取り入れた炊飯器が開発されていますので、好みに合った炊飯器を選ぶことで手軽に好みのごはんを楽しむことができるようになりました。
高くていい道具を買ったからって、使わなければごはんは食べられません。毎日炊くごはんだからこそ、毎日使える道具を選ぶべき。手軽さとおいしさを兼ね備えた炊飯器をチョイスするのは「大アリ」です。
『平川さんに聞いてみよう』
さて本題に入りましょう。
オープンから3年。延べ3万食を提供している、出汁ステーキ定食のお店が考える「理想のごはん」とは、いかなるものでしょうか。精米すること1000回を越えて、毎日ごはんを炊き続けている「平川さん」に、いよいよ質問をぶつけます。
――清喜ひとしなは、どうして土鍋?
「メインがあっさりとしたヒレステーキなので、主張が強すぎず、食事に寄り添うやさしい味わいを狙っています。毎朝精米ならではの雑味のなさと、澄んだ香りを楽しむのには土鍋がいちばんです。
炊き上がりはツヤっとしてふっくら。黒豆のような状態が理想です」
――どんなお米を使ってる?
「お米は久留米の中村農園さんの「夢つくし」。無農薬栽培の玄米を分けてもらっています。中村農園さんでは籾がついた状態で保管されてあるので一年中保管状態がとてもいいです。
ひとしなに着いてからは専用の玄米低温貯蔵機で15℃をキープしています。低温乾燥によるひび割れや、熱劣化の心配もありません。」
――どんな土鍋を使ってる?
今は伊賀焼の窯元である長谷製陶の土鍋『かまどさん』の五合炊きに落ち着いています。使っているお米との相性もよく、理想的に炊き上がります。炊き上がりに水分でべちゃっとすることがない。とても優秀な土鍋だと思います。
――おいしく炊くためのポイントは?
「夢つくしのお米粒は小ぶりで繊細な味わいが特徴。その長所を最大限引き出すために、精米は胚芽が少し残る程度にとどめ、洗米で自然に落ちていちばん旨みが残る状態を狙っています。あとはきちんと計量して、きれいな水で浸水したものを炊くだけなので特別なことはしていません。
毎朝精米しているのでとにかく新鮮。自慢のお米です。だから、何かを足すとか加えるのではなく、お米が持っている「いいところ」を引き出してあげることをだけを考えて炊飯しています」
――気をつけているポイントは?
「土鍋は他の炊飯用具と違って鍋自体が水分を吸います。そのため、休業日の翌日は炊飯時の水を少し多めに調整するようにしています。また、これは土鍋に限りませんが、新米は水分を多く含んでいるので、すこし少なめにします。お米と土鍋の様子を見て決めるので、とても気を使う点です」
――家で炊飯する時に気をつけたいことは?
「状態の良いお米を使うに限ると思います。お米屋さんなどの精米機でこまめに精米するか、小さめのサイズの米袋を選ぶようにして、ご自宅のお米の回転を良くすることを心がけてください。
羽釜、土鍋、炊飯器、などの炊飯道具はなるべく性能の良いものを。あとはセオリーどおりに炊けば間違いありません」
『まとめ』
平川さんからのアドバイスをまとめると次の通りです。
①鮮度のいいお米を使う
②炊飯道具はお好みで性能の良いものを
③基本に忠実に炊く
また、平川さんは「炊飯とは煮る・焼く・蒸すをひとつの鍋でおこなう調理だ」とも語ってくれました。なるほど知れば知るほどに炊飯の道は奥が深い。それだけに基本をきちんと守ることが大事なのですね。
【豆ちしき】 水田さんちはどうしてる?
番外編です。ライスバードの代表・水田さんは自宅の炊飯をどうしているのか。どうしても気になったので聞いてみました。
ZOJIRUSHI製の「炎舞炊き」シリーズを使っているそうです。土井善晴先生の「洗い米」方式で、早炊きモードでぱりっと。ポイントは、いかに雑菌を繁殖させずに炊き上げるか。
洗米したお米をザルにあげて、冷蔵庫で浸水させることで雑菌の繁殖を抑えます。材料が「水と米だけ」だからこそ、きれいなお米をきれいな水で炊くことが大事、とお話ししてくれました。
なるほどです。